7. 結論
7.1 本法則の意義と限界
複雑性保存の法則は、フレームワークに対する万能の解決策を提供するものではない。本法則が提供するのは、複雑性の排除を目的としたあらゆる試みに対する構造的な警告である。
本法則の実用的な意義は、「このフレームワークを導入すれば問題が解決する」という安易な期待に対する免疫機構として機能する点にある。あるフレームワークが複雑性を低減すると主張する場合、本法則は「その複雑性はどこに移転したのか」という問いを提起する。この問いを持つこと自体が、フレームワーク導入における判断品質を向上させる。
ただし、本法則自体もひとつのフレームワークであり、本法則の8原則すべての適用対象である。本法則が自身の限界を明示的に記述していること(近似性宣言)は、この自己言及的矛盾に対する誠実な対処であるが、矛盾そのものを解消するものではない。
7.2 複雑性との共存に向けて
本法則から導かれる最も実践的な指針は、複雑性の排除を目指すのではなく、複雑性の移転先を意識的に選択するという態度の転換である。
複雑性が保存されるのであれば、問うべきは「どうすれば複雑性をなくせるか」ではなく「この複雑性をどこに置くのが最も害が少ないか」である。これはフレームワーク設計における発想の根本的な転換を要求する。
最終的に、複雑性保存の法則が推奨するのは、フレームワークを完璧な解決策としてではなく、常に暫定的な仮説として扱い、その限界を継続的に観測し、複雑性の移転先を意識的に管理するという、終わりのない運用姿勢である。
完全な解決は存在しない。しかし、そのことを知っていることには価値がある。